2026.05.08
【プレーヤーインタビュー】森からはじまり森へ還る、循環する精油事業。地域の未来をつなぐ、誇りある商品開発

長野県が進める「輝く農山村地域創造プロジェクト」により、農山村地域が持つ資源や魅力を活かし、持続可能な地域づくりを目指す取り組みが進んでいます。
この連載ではプロジェクトに関わるプレーヤーの活動や想い、地域との関わり方を掘り下げます。
三人目のプレーヤーは、合同会社楠山の代表である吉水純子さん。精油事業を行いながら、国内外の特産品開発にアドバイザーとして関わっており、根羽村では森林資源を活用した精油事業と商品開発、そして根羽学園の総合学習の授業で商品開発を教えています。
蒸留家である吉水さんが、なぜ日本の林業界に足を踏み入れたのか。「森からはじまり森へ還る」循環モデルにかける思い、根羽村の子どもたちの先に見据えている未来についてお聞きしました。
森の素材探しと、根羽学園での本気の商品開発

――「輝く農山村地域創造プロジェクト」において、吉水さんは根羽村でどのような活動をしていますか?
まず、根羽の森の中からアロマに有用な植物の素材を探しています。杉やヒノキなど有名なものから、他の地域がまだ手をつけていないものも含めて、根羽らしい素材を集め、商品開発につなげます。すでに、地域の商業施設と連携した商品開発のプロジェクトや、地域の飲食店と一緒に「根羽の森」のフレーバーのアイスクリームを開発するなど、フードの開発にも携わっています。
また、私の中で一番アツいのが、※根羽学園8年生(中学2年生)に向けた総合学習の授業を受け持っていることです。
――詳しく教えてください。
12の授業項目を立てて、本気の商品開発の授業をしています。
12の授業項目
1.蒸留とは何か?
2.素材について考える
3.売れるとはどういうことか?経営とは何か?
4.商品を開発したあとはどうする?
5.営業戦略とコストカリキュレーション
6.商品管理と品質保証
7.様々な法律と税金
8.パッケージデザインと送料について
9.環境配慮と企業の責任
10.最終的に自らのボーナスとなる豊かな自然
11.報酬とは何か?
12.一番気持ちの良い所をさがそう。

生徒たちが何をしたいのか聞き取りをしたら、「根羽の森を商品にして、それを売ることで根羽村のことをみんなに知ってもらいたい」という意見が集まってきたんです。
税金の仕組みや原価計算、デザインの必要性、利益とは何かなど、ビジネスの基礎から会社として商品を作って在庫を持つ責任、それをどう売るのか。商品開発者がどういうところに着目して次の発想を生み出すのか。基礎知識やマインドセットの座学から、実際に商品を開発して販売するまでの実践を交えて教えています。
たとえば、先日は「根羽の森を商品にしたいなら、森林組合との交渉が必要だよ」と、しっかり交渉術を教えた上で森林組合さんに交渉に行く授業をしました。森林組合さんにも、「子どもだから」と優しくしないようにお願いしました。普通は子どもに見せないような大人の話をしないと商品開発はできないので。
――実際に村で働く大人との接点もでき、子どもたちはかなり刺激を受けそうですね。
ほかにも、「みんなは『根羽村のことを知ってもらいたい』と言うけれど、あなたたちは村のことを知ってるの?村史読んだことある?」と、村史を持ってこさせて村の歴史を紐解く授業もしました。
――どうして商品開発に村史が必要なのですか?
村史の中には、いろんな水害やがけ崩れ、山にどんな植物が生えていたのかなどいろんな歴史が載っています。たとえばがけ崩れというのは、天然資源や野生の植物を使う人間としてはものすごく貴重な情報なんです。
学生のときに、誰しも一度は「なんでこれが必要なのかわからない」「歴史なんて覚えなくても」みたいなことを考えるじゃないですか。でも、蒸留は科学が必要だし、原価計算には算数がいる、情報を集めるのは英語も必要。「勉強は将来の自分につながるんだよ」というメッセージを要所要所に入れています。
根羽村は村内に高校がないから絶対に1回は村の外に出るでしょう。今私が接している子どもたちが、高校生になって村の外に出たとき、村の何を伝えてくるのか。そして何を持って帰ってくるのか。私はそれに期待していますし、それを見届けたいなと思っています。
※根羽学園・・・小中一貫の学校。1年生から9年生までが学ぶ。根羽村の豊かな自然や産業・人材を活かして地域全体で子どもを育んでいます。
森からはじまり森へ還る、循環型のビジネスモデル構築を目指して

――吉水さんが根羽村と関わるようになったきっかけは?
コロナ禍の最中に、仲間を集めて一般市民に向けた林業講座を企画したんです。3年間で150人ぐらいの方たちが参加してくれました。
その受講生の1人が、根羽村の地域おこし協力隊員で、そこから一般社団法人「ねばのもり」の杉山さん(通称:マギーさん)を紹介してもらい、根羽村を訪れたのが最初です。その後、2025年1月に根羽村で開催された「森とまちの流域学」というイベントに呼んでいただき、そこで私がお話しした循環型のビジネスモデルに共感したマギーさんから「根羽村で一緒にやりませんか」と声がかかったんです。
――具体的にはどんなモデルだったでしょうか。

「全国各地にある未利用・未活用の森林資源がどうやったら息を吹き返すことができるのか」という視点で、山から海まで流域全体をつなげるビジネスモデルの構築を目指していました。
私はこれまで、北海道・沖縄を除いて全国どこにでもある杉の木にあえて着目し、杉のアロマオイルを中心とした販売事業を構築してきました。また、一般的に木材にならず廃棄されるような素材にも注目し、薪で蒸留ができる蒸留機械を輸入した実践を行っていたんです。
蒸留器でオイルを精製するにあたって生まれる副産物の利活用方法も設計していました。木灰は土壌改良剤になるし、石鹸も作れる。蒸留の過程で溜まる液体は、染色に使えるし農業にも活用できますし、残渣は堆肥として最適です。蒸留の熱は暖房にもなるしハウス栽培に使える。煙は燻製などのスモークとして活用できます。
余すことなく、森からはじまり森へ還る。そんな循環を日本の農山村から実現できるんじゃないかと。
――根羽村と一緒に、そのモデルの確立を目指していくことになったのですね。吉水さんから見て、根羽村の可能性を感じる部分はどこですか?

まず、根羽村は村長さんと森林組合長さんが一緒というのが特徴的だと思います。森の活用についての提案と相談がし易い現場の雰囲気が整っている。それから、役場や村営住宅のデザイン設計が素敵なんです。現場の人たちにデザイン性がちゃんとあるというのもすごく面白いと思います。
ソフト面で言うと、若い移住者が増えていて、自発的に何かやろうとしている人たちが多い。それに、地元の人が移住者や外から来た人に優しい気がします。
それから、根羽村は水がおいしい! 蒸留において、水はものすごく大事なファクターです。そして私自身も水が合わない土地は駄目なので、これも大事なポイントでした。根羽村に来ると、いつも源流を見に行くんですよ。そういった自然資源や、施設や仕組みなどのハード面と、そこで暮らす人たちのソフト面。そのバランスがちょうどいい土地だと思います。
森の「出口」を探す森林組合と、森の「入口」を探す蒸留家の出会い

――そもそも、蒸留家である吉水さんが林業に関わるようになったきっかけはなんだったのでしょうか。
私は「森の入り口」を探していたんです。
――というと?
私は2011年まで、ヒマラヤで就労支援の一環として森林資源由来のアロマづくりに携わっていました。帰国後、日本のアロマシーンがどうなっているのか気になって、日本全国の蒸留所を回り始めたんです。でも、当時の日本には数えるほどしか蒸留所がなくて。日本で森林資源を利用したアロマオイルを作りたい場合、まずは林業の人たちと一緒にやらないとできないということがわかったんです。
たとえば、ハーブや柑橘系を利用したアロマであれば、農家さんのところに行って素材を購入するか自分で育てればいいんですが、木となると適当な森に入って「ちょっとその樹伐って分けていただけます?」みたいなこともできないし、商業用となると段階的に何トンもの材料が必要になります。森ってそもそも入っていいのかどうかもよくわからないし、誰が持っていて誰に連絡すればいいのかわからないじゃないですか。
――なるほど。森に関わろうにもどこから入っていけばいいのかわからなかったと。
そんな中で、縁あって三重県の宮川森林組合さんとつながれて。宮川森林組合は、当時から多様性の高い森づくりを進めていて、京都大学の教授と一緒に針葉樹と広葉樹が混ざった混交林をつくっていました。
しかし、その先どうするのかという壁に直面していたんです。私は「森の入口」を探していて、彼らは「森づくりの出口」を探していた。それがぴたっと合ったんですね。そこから林産物商品開発のコーディネーターとして参画することになり、日本の森の世界に入りました。
当時の担当者さんが、「森づくりの結果が出るのは100年先、200年先になるから俺たちは見られない。だけど、今やらないと」とおっしゃていて。そういう覚悟で森づくりをやっているというのを聞いて、ちょっとわくわくしちゃったんです。林業の世界を知れば知るほどすっかり沼にはまっちゃったんですよね。
――その後、どのように活動を展開されたのでしょうか?

宮川森林組合さんと一緒に行った、森づくりから商品開発、販売まで含めた一連の活動が斬新だったので、令和元年度の林業白書にその取り組みが載ったんです。そこから、日本中の森林組合さんたちから声がかかるようになり、日本各地の森でアロマオイルを作るようになりました。
2020年から2024年の5月までは、宮崎県で自身の蒸留所を運営していました。自分が注文を受ける側の地域の人になってみることで、蒸留が主職業として回るビジネスになり得るかのテストをしていたんです。

せっかく若い世代が地方に住みたいと思っても、なかなか仕事が見つからないという課題がありますよね。50万円ぐらいから始められる蒸留のビジネスモデルを生み出すことができれば、地方での働き方の選択肢が増えるし、地域の林産物が活用され、山主さんにお金が入って森の手入れも進む。国産のアロマを手に入れられる人たちも増えていく。そういう三方よしを考え、日本発のアロマオイルの蒸留システム開発をがっつり行ってきました。
根羽村モデルを育て、全国の農山村に持続可能な事業を広げたい

――改めて、吉水さんが根羽村との「輝く農山村地域創造プロジェクト」で目指していること、期待していることは何ですか?
とにかく人材育成です。やらなくちゃいけない。地域における商品開発では、ハードの部分の開発だけではなくてソフトの開発も重要だと思っています。人間の中にあるコアの部分の開発が、このプロジェクトをきっかけに根羽村の中でどんどん進んでいけばいいと思います。
人材育成ってやっぱり1人でできるものでもないし、いろんな先生がいなくちゃいけない。その点、根羽村には面白いプレーヤーがたくさんいます。いろんなプレーヤーが参画することによって、根羽村がひとつの成功モデルになっていって、あちこちの山村とかに飛び火していく。そうなることを願って活動しています。
最終的には、根羽村発の商品を生み出すことで、「この商品開発に関われた」というプライドを村の中から生み出したい。そして、自分がそこに関わる以上、自分自身もその土地や人の可能性を信じたい。ちゃんと自分が信じているところありきで仕事をしていきたいですし、根羽ではそんな仕事ができると日々思っています。
取材・文:風音