2026.04.24
【プレーヤーインタビュー:根羽村】企業の課題と森の課題を同時に解決する――根羽村が描く「いい森づくり」の未来

長野県が進める「輝く農山村地域創造プロジェクト」により、農山村地域が持つ資源や魅力を活かし、持続可能な地域づくりを目指す取り組みが進んでいます。
この連載ではプロジェクトに関わるプレーヤーの活動や想い、地域との関わり方を掘り下げます。
一人目は、長野県最南端の根羽村で中間支援組織「一般社団法人ねばのもり」を立ち上げ、村の暮らしを面白くする活動を展開する杉山泰彦さん(通称:マギー)。
杉山さんは東京から根羽村へ移住し、「村民」として地域に根ざした活動を続けてきました。現在は、「稼ぐ」と「いい森をつくる」を両立させる仕組み作りを模索しています。従来の林業の枠を超えた挑戦について聞きました。
村役場ができないことを、まず民間でやってみる実行部隊

━━まずは杉山さんの普段のお仕事や活動について教えてください。
一般社団法人ねばのもりの代表として、村の情報発信やPR活動、移住支援、教育に関わる事業を行っています。役場から委託を受けて移住業務や放課後子ども教室の運営をしていますし、自社事業として築130年の古民家を改装した一棟貸し宿「まつや」の運営も行っています。「村ごこちのよい里山の風景を育む」をテーマに、村での暮らしがよくなる取り組みを推進しています。
ねばのもりは基本的には村の中間支援組織なので、基本的には根羽村役場が村として実現したいこと、総合計画やビジョンに対して、それを形にしていく実行部隊を担っています。その中でも特に新規プロジェクト領域においては、実績がないと実行しづらい村役場に対して、私たちは民間側なので、自主財源を使うか外部からお金をもらって実験的にプロジェクトを実施することができます。
その結果を村に報告し、「こんなことをしたらこんな効果があったから、村としてもっと力を入れてみたらどうですか」という提案をしていきながら一緒に村の未来について考えていく役割を担えているかなと思っています。

━━「輝く農山村地域創造プロジェクト」に関わるようになったきっかけは何ですか?
村としてこのプロジェクトに参加することになった頃に役場から相談をもらいました。当時の村の案としては広く浅くいろんなことに手を出そうとしていたので、「もっと絞った方がいいのでは」と提案しました。
根羽村は森林率94%で、村全体が森林組合の組合員という、森と一体になった村です。だからこそ、森の資源を活かした地域づくりに特化してこの事業に取り組むのが一番重要だと思います。そこから、森のことに絞ったビジョン作りを一緒に行っていきました。
根羽村の森林資源や暮らしの知恵を活かして、都市部が抱えている課題を解決する
━━輝く農山村地域創造プロジェクトの中で、杉山さんの立ち位置や役割、関わり方を教えてください。
輝く農山村地域創造プロジェクトでも、根羽村が掲げるビジョンに対しての実行部隊として動いています。村全体の取り組みをコーディネートし、外部のプレーヤーとも連携しながら、プロジェクトを動かしていくことが僕の役目です。
最近の取り組みで印象的だったのが、愛知県名古屋市の矢作建設工業様との連携です。約90人の新卒研修を村で受け入れて、根羽村の木材を使ったおもちゃを作ってもらい、それを根羽学園の全校生徒48人にお披露目するというプロジェクトを実施しました。

根羽村から豊田市へ流れる「矢作川」から社名を取っており、矢作川沿い地域への貢献を続けている
━━この研修が印象的だったのはどうしてですか?
この研修では、根羽村の端材や廃材を買い取ってもらったほか、約40本ほどの竹を山から引っ張り出してきました。通常、竹というのはお金にならないんです。むしろ竹が生い茂っている地区では、ボランティアで竹を切り、その行き先がなく産廃として処理費用を払っているくらい。でも今回の企業研修では、山から竹を切り出す作業を材料調達費用として計上し、人件費を払ってもらっています。これはすごい革命だと思います。
企業としては、会社が大切にしている「誠実さ」を仕事で表現してほしいということと、会社として社会貢献をしていることの大切さを新卒の方々に知ってほしいという二つの課題がありました。
地方の課題を解決するだけじゃなくて、企業側が抱えている課題を、僕らが解決できることもたくさんあるんじゃないかと。根羽村の森林資源や、ここでの暮らしの知恵を活かして、都市部の企業や人たちが抱えている課題を解決する。そのための仕組みやプログラムを、今後もいろんな人を巻き込みながら作っていきたいです。
稼いだけど使い先がない――「いい森づくり」のための組織が必要

━━輝く農山村地域創造プロジェクトを通じて、チャレンジしてみたいことはありますか?
どうやったら稼げるかというところが最初に見えてきた課題だったので、まずそこをいろいろ考えて走っていました。でも途中で見えてきたのは地域に還元できる方法が少ないという課題です。
私が運営しているねばのもりとしても、上がった売り上げを森に還元したいと思っています。しかし、森林組合は林業で稼ぐ団体なので、「いい森をつくる」というのが必ずしも主目的ではないわけです。役場の林務係も、村の森林整備や林道を開けたりすることが仕事。林業と森づくりは別なんじゃないかと。なので今は、役場に「いい森づくりをすることに特化した組織を作りませんか」という提案をしています。
━━マギーさんの考える「いい森づくり」とは?
僕が考える「いい森」は、意思のある森だと思っています。ただ単に植樹するのではなく、そもそもどういうものにしたいのか、誰のための森なのか、どういう使い方をする森なのかということを逆算している森が、いい森になっていると思います。
例えば、シチズン時計株式会社様が「根羽村 シチズンの森」を作っていますが、そこには信州大学の教授も一緒に入って、何を植えるのかを協議して樹種選定をしています。水はけの状態や現在の土の状況を踏まえて樹種を選び、水源管理のために落葉樹を入れる。周辺にカエデ類やシデ類などの風で種を散布する木が結構あったので、そうした自然に侵入してくる見込みが高い樹種はあえて植樹せず、どんぐりなど侵入が見込みにくい樹種に絞って植樹するという判断をしています。それはとても意思のある森づくりだと思います。
企業さんたちも、いい森づくりを応援したいはずなんです。来年度までにその計画を固めて、必要な人材を探し、もっとがっつり動かしていきたい。今年僕がプロトタイプ的に動かした稼げる案件と、「環境を守るいい森づくり」をしたいという二つの機能が両輪で回り始めれば、村の森も変わっていくかもしれません。
━━マギーさんは移住者だとお聞きしました。根羽村で暮らす中で、ご自身のライフスタイルや考え方が変化した部分はありますか?
自分の娘2人が根羽村生まれで、根羽の保育園に通っています。娘たちの方が僕より自然や野菜のことに詳しいですし、動物や鶏との触れ合いも上手なんです。最近は娘達が木工にすごく興味を持っているので、休日に一緒に何か作ったりしています。「身の回りで今欲しいものを作ろう!」と、端材を切って人形の二段ベッドを作ったりとか。これがめちゃめちゃ楽しいです。
子どもが当たり前に木を使って何かを作る。これって、根羽村で暮らしているからこその感覚だと思うんですよね。森の資源が身近にあって、それを使って何かを生み出す喜びを知っている。そういう環境で子どもが育っていることが、すごく豊かなことだと感じています。
森の資源が身近にあり、暮らしがより豊かになる循環を
━━「輝く農山村地域創造プロジェクト」を通じて、地域のどんな未来を望んでいますか?
村の中だけで完結するのでなく、外の人や企業と繋がりながら、根羽村の資源や魅力を活かしたビジネスを作っていきたい。そうすることで、ここで暮らす人たちがちゃんと食べていける、生活していける環境を整えたいです。
どんなにいい取り組みでも、続けていけなければ意味がないですから。経済的に持続可能な仕組みを作ることが、今の自分の大きな目標です。都市部の人たちや企業が抱えている課題に対して、根羽村だからこそ提供できる価値を届けていく。そういう関係性を広げていくことが、これからの農山村には必要だと思っています。
もう一つ大事なのは、里山と暮らしの関係です。里山がどんどんなくなってきていて、クマが人里に降りてきているという全国的な問題があります。過疎地域が生き残っていくためには、都会的機能を実装するのではなく、里山的な機能を残し続ける、むしろ増やさないといけない。
たとえば、これだけ林業が盛んな地域でありながら、薪ストーブを使っている家庭は村内でまだまだ少ないですし、買う場所がないからと村外から薪を買っている人も多い。ライフスタイルと森を繋げていく活動も並行してやっていかないと、森がよくなっていかないと思います。道はまだまだ長いです。
━━最後に、根羽村の取り組みや林業が気になると思っている人へのメッセージをお願いします。

結局、「輝く農山村」を実現するには、常識から外れないと無理だと思うんです。常識から外れる一手を打つことを恐れないでほしい。
そもそもなぜこのプロジェクトが立ち上がったかというと、既定路線で行くのはもううまくいかないことがこれまでの経験から見えているからです。成功より失敗する可能性の方が絶対高いと思います。でも、失敗を恐れちゃった分、輝けないし、失敗することを責めようとする人たちが多ければ多いほど輝きづらくなる。非常識なことをやっていることに対して、温かく見守る寛容さも大事です。
根羽村は小さい村だからこそ、一人ひとりの顔が見えて、何かを始めたときの反応もダイレクトに感じられます。自分のアイデアが形になっていく実感を得られる場所です。興味がある方は、ぜひ一度遊びに来てください。暮らしを一緒に面白くしていきましょう。
取材・文:風音