2026.03.31
「Forest College Advance」を終えて見えてきた、これからの森づくりの展開 〜人口800人の村が一体となって取り組むプロジェクト「nebane」が積み上げてきたこととこれから〜
2026年3月、長野県根羽村での森の取り組みを学びに「Forest College Advance in 根羽村」が開催され、全国から8名の有志が集まりました。

Forest Collegeは2020年から250名以上の森林・林業関係者と「森との接点」を広げてきた株式会社やまとわが主催する取り組みです。今回、より深い実践的な学びを目指して立ち上げた新シリーズ「Advance」の第一回目を根羽村にて開催しました。
根羽村役場は2024年度から「新しい森林経営のあり方を模索する」を掲げて新プロジェクトの取り組みを始め、2025年3月に流域経済圏プロジェクト「nebane」を始動させています。今回のイベントは、始動1年目となった2025年度の様々な取り組みの集大成となりました。




2日間の合宿で参加者たちは根羽村の山を歩き、現場の実践者たちと語り合い、「自分の地域の森をどう動かすか」という問いを深めて帰っていきました。アンケートには、こんな声が残りました。
「森林とは、山とは?と問いを考え抜いた濃密な二日間でした。」
「200年先にどうなるか分からないものに対して、今、腹決めて手を動かしている人たちがいる。その時間軸を引き受ける責任の重さと面白さを、2日間通して強く感じました。」
「今後山林を所有する人間として、身が引き締まる思いです。はっきりと、自分事として捉えなければいけないと感じました。」(原文ママ)
nebaneがスタートしてから1年、対話・視察・実験を通じて積み重ねた1年間がどのように地域の森づくりの活性に繋がり、森を通じた関係人口を生み始めているか、プロジェクトの軌跡と現在地をお伝えします。
「親が植え、子が育て、孫が伐る」村で、何が起きていたか

根羽村は、矢作川の源流に位置する人口約800人の村です。森林面積は94%。「親が植え、子が育て、孫が伐る」という三代にわたる山づくりの哲学を受け継いできた村です。村長が森林組合長。全世帯が山を所有し、村民全員が森林組合員。森林組合が伐採・製材・販売まで行う「トータル林業」を推進するなど、村を語るにあたって森のストーリーは欠かせません。
しかし、その森が置かれている現実はとても厳しいものです。
林業は、全国的に深刻な構造的問題を抱えています。外材との価格競争、木材価格の長期低迷、補助金がなければ採算が取れない事業構造——何十年もかけて木を育て、伐り出し、加工し、届けても、利益が山側に残らない。「親が植えた木を、孫が赤字で伐る」とも言われる現実が、各地の林業地を静かに蝕んでいます。担い手が育っても、それに見合う仕事と収入が見えなければ、次の世代は続かない。その結果、山は放置されていく。
根羽村でも例外ではありません。しかし、厳しさを痛感しながらも村や森林組合はなかなかこの逆風を変えることが出来ませんでした。
課題があるのは分かっている。しかし「誰が、どこに向かって、どう動かすか」が見えてこない。不安を抱える中でそれぞれが目の前のことに精一杯という状態が続いていました。林業者は林業者の現場で、製材所は製材所の仕事で、役場は役場の業務で——みんな本気なのに、歯車が噛み合わない。

「歯車が噛み合ったら、相当面白い。」
プロジェクトの立ち上げから伴走してきた株式会社やまとわ取締役の奥田悠史さんが立ち上げの際に語ったこの言葉。この歯車を噛み合わせるための下地づくりを、まずはnebaneの第一歩として掲げました。
外を見て、内を深めた
nebaneでは関係メンバーである森林組合やパートナー企業との共有知を増やすために、参考事例となりうる各地への視察を重ねました。




岐阜県飛騨市では、地域が一体となって広葉樹の利活用に取り組む現場を見学。東京の檜原村に拠点を構える東京チェンソーズでは、都市の森で林業の意義をどう伝え、どう事業化しているかを学びました。国産材を取り扱うログハウスメーカーとはモデルハウスを前に意見を交わし、大径材を「そのまま生かす」建築の可能性と、乾燥・加工という現実の壁を体感しながら、連携できる方法を模索しました。滋賀県の大喜工務店では、ヒノキならば1尺角で10年、ケヤキは30年という歳月をかけて天然乾燥を行い、広告宣伝費をかけず営業マンも一人も置かないのに、良いプロダクトの口コミで客が絶えないという異色の経営手法を目の当たりにしました。
「自分たちの特色を活かした経営とは、どういうことか」——その問いの繰り返しが、根羽村の製材所が向き合うべき方向を、少しずつ照らしてきています。外を見れば見るほど、根羽村という場所が持っている固有の強みが、チームの共通体験として積み上がっていきました。

並行して、根羽村の内側でも丁寧に対話の場をつくっていきました。「森を考える会:生産林編」では、林業者・製材業者・山主など現場の最前線にいる人たちが集まり、根羽村の森のいまとこれからを語り合いました。「難しい現場をうまく搬出できたとき」「山主さんに『良い風にやってくれてありがとう』と言われたとき」——そういう言葉が、それぞれの口から出てきました。「いくら良い木を育てても、市場価格が上がらない」という苦しさも、同じ口から出てきました。どちらも、森に真剣に向き合っているからこそ出てくる言葉です。

「森を考える会:里山林編」では21名の村民が集まり、里山の思い出と未来への想いを語り合いました。また、信州大学農学部の内川義行准教授を迎えた「根羽村×信州大学農学部調査報告・里山を開く会」も開催。村民たちが自分の言葉で森について語る場が、少しずつ積み重なっていきました。
外を歩いて見えてきたこと、内で語り合って浮かび上がってきたこと——その両方が、同じ場所に向かっていました。山で働く林業従事者も、製材所で働く職員も、山主も、役場の担当者も、それぞれが本気で森のことを考えている。ただ、その思いが一つの方向に束ねられていない。語り合う場がなかっただけで、向かいたい方向はそんなに遠くない——。根羽村という小さな村だからこそ、全員が顔見知りで、全員が同じ森を見ている。その強みに改めて目を向け直すことが、現実を打破する可能性として輝いて見えてきました。
語るだけでなく、手を動かし、仲間も増やした
対話と視察を重ねるかたわら、nebaneがハブとなって「新しい現実」をつくることも始めました。

名古屋市の商業施設「mozo ワンダーシティ」との連携では、根羽村の里山資源を活用した家具や、食品の開発を実施しました。「サステナブルなライフスタイルを提供したい」という都市側のニーズと、「森林資源の魅力と価値を伝えたい」という村側の思い——その接続をnebaneが担いました。「都市側が抱える課題を、村の資源やアイデアと組み合わせる」という流域経済圏の考え方が、初めて具体的な商品として形になった取り組みです。

アイシングループとの連携も深まりを見せました。2004年から根羽村と「森林の里親契約」を結ぶアイシングループは、2025年も約70名が根羽村を訪れ、植樹と環境学習を行いました。森の現状を伝える布芝居、1本1本を丁寧に植える植樹、ネイチャービンゴでの発見——「森とともだちになるためには、まず相手を知ることが大切」という言葉が示すように、この活動は単なるCSRを超えて、人を育てる場としても根羽村に根づき始めています。「去年植えた木は育っているかなあ」「来年も参加したい」という声が、継続的な関係の深まりを物語っています。

矢作建設工業は、「社名の由来となる矢作川の源流のある根羽村で環境整備事業を行いたい」という思いから関わりを始め、2025年には新入社員約90名が一泊二日で根羽村を訪問する研修プログラムを実施しました。村の木材を使って子ども向けの遊び道具を企画・製作し、根羽学園の子どもたちと「杉っこ祭り」で遊ぶ——という、地域と本気でつながる形の研修です。この研修がきっかけで子どもたちの間で木工が流行し、放課後に週1回の木工教室が開設されるという、予想外の広がりも生まれました。

さらに、名古屋の久屋大通公園では「森との暮らしLAB」を開催。根羽村から運んだ丸太を使った体験コーナーに約50組の親子が集まり、都市の真ん中で「源流域の森」を体感する場をつくりました。「丸太を置いておくだけで、子どもたちが何時間でも遊び続ける」——その光景が、都市の人と根羽村の森をつなぐ可能性を、チームに改めて実感させていきました。
語ること、動くこと、そして仲間を増やすこと。根羽村の森に関わる人の輪は、村の内側だけでなく、流域全体へと広がり始めていました。

そして「どう森をよくするか」という問いに長い時間軸で向き合う取り組みも動いています。根羽村と愛知県安城市が共同で管理してきた「矢作川水源の森」のリデザインと、コンセプトマップの策定です。信州大学の研究者とともに現地調査を重ね、源流林業の森・渓流の森・集いと学びの森など複数のゾーンに分けて、15年後の森の姿を描いています。矢作川流域に暮らす約112万人の生活を支える水の源として、この森が果たしている役割を「目に見える形」で伝えること。流域の企業や市民が「この森に関わる意味」を実感できるようにすること。そのストーリーを、今まさに描いているところです。

また、大径材天然乾燥試験「Neba Scale(ネバ・スケール)」も2025年11月にスタートしました。規格外とされる大径材を人工乾燥機のエネルギーコストに頼らず建築用材として活かせないか——根羽村・安城市・西尾市という矢作川流域の「山・里・海」3拠点に合計90本の試験体を設置し、約1年にわたってデータを積み上げています。流域の源流で生まれた木が、流域全体の環境データをもとに乾かされ、流域の建築へとつながっていく——この実験そのものが、nebaneの目指す流域経済圏の、一つの具体的な形です。
そして、Forest College Advanceへ
対話し、視察し、実験し、ビジョンを描く——1年間の積み重ねの中で培ってきた自信が、Forest College Advance in 根羽村を生みました。

方向性に悩んでいた森林組合のメンバーが、講師として現時点での葛藤も語りながらも大切にしたいスタンスや次の戦略を自らの言葉で語る。1年前、「ビジョンを考えようとしてもかたちにならなかった」と悩んでいた大久保さんも、「誠実」を掲げられる森林組合を目指したい、と参加者に伝えていました。




また、講義では流域型森林経営を実践する「もりとみず基金」の尾崎康隆さん、奈良県フォレスターの長谷山陽大さん、放牧酪農と森を組み合わせた「ハッピーマウンテン」の幸山明良さんらも加わり、現場のリアルと中長期の視点を同時に受け取っていきました。
「どうやったら下流域の人たちが、森の当事者になれるか」
「正解の見えない森づくりと、どう向き合うのがいいのか」
「経済的に厳しい森林経営で、どうやって稼ぎをつくるのか」
「地域の木材を使いたくなるような関わりとは」
「源流が流れる小さな山村は、どのようなスタンスで関わりをつくっていくべきか」
全国からここに集まった人たちが、会話の中で問いを深めていく。森の葛藤と向き合ってきた根羽村で積み重ねてきたものは「学びの源」になれるという手応えになりました。そして、それは同時にこの村の積み上げてきたものが外に通じる、という証明でもありました。
終えてみえてきたもの、そして本格的始動と採用へ
この1年の積み重ねとForest Collegeの開催を終えて、私たちは今見えてきたことがあります。
行政の単年度サイクルでは描けない中長期の森づくりビジョンを描き、森林組合が現場に集中できるよう戦略を担い、村のみならず流域沿いの企業や市民との関係を育て続ける。そういう役割を本気で担う組織を根羽村に生み出すことができれば、バラバラに動いていた歯車を同じ方向に向けて束ねることができる。
小さな村だからこそ、それができる。その確信を、この1年間の終わりに感じることができています。

2026年度から、nebaneは中核組織として本格的に始動します。
森の管理・経営に向き合える人、地域と企業・流域をつなぐコーディネーターとして動けるフォレスターのような人。根羽村というこの場所のビジョンに共感し、長い時間軸でこの森と向き合える人を組織の中心に据えることを目指し、採用活動も行います。
根羽村が掲げる「ネバーギブアップ」の精神。あきらめない心を携えて、根羽村チーム一丸となってこの村の森とまだまだ向き合っていこうと思います。
nebaneの取り組み、「流域経済圏」や「持続的な森林経営」といった言葉が気になる方は、ぜひ根羽村へ足を運んできてください。そして、nebaneが開催するイベントやワークショップにも参加していただけたらと思います。その小さな一歩があちこちで支流を生み、より大きな流れをつくっていくのです。
執筆者:杉山 泰彦(nebane代表)