2025.12.05
人工乾燥に頼らない、新たな木材活用。建築用材としての実用化を目指し、正角・太鼓・丸太の3種の形状で大径材の天然乾燥比較試験を根羽村森林組合が実施
長野県根羽村および根羽村森林組合は、村内に豊富に存在する大径材の有効活用と、昨今のエネルギー価格高騰に対応するため、2025年11月より大径材天然乾燥試験「Neba Scale(ネバ・スケール)」を開始いたします。
本プロジェクトは、矢作川流域圏ネットワークの協力のもと、根羽村(山間部)・安城市(平野部)・西尾市(沿岸部)の3拠点で実施し、地域気候の差が木材乾燥に与える影響を比較検証するものです。

背景:深刻化する「大径材」の増加と活用難
戦後の拡大造林により植林された日本の森林資源は、現在本格的な利用期を迎えています。しかし、長期間の育成により想定以上に太く成長した「大径材」は、根羽村においても多く存在し、今後さらに増加が見込まれています。
本来、太い木材は豊かな資源であるはずですが、今日の木材需要の”規格を外れた”大きさとなってしまったものが森に大量に眠っており、出すための有効な活用方法を模索しています。
特に大きな障壁となっているのが「乾燥工程」です。体積の大きい大径材は内部まで乾燥させるのに時間を要するため乾燥の難易度が高く、人工乾燥機を使用する場合のエネルギー消費量が膨大になります。
昨今のエネルギー価格高騰はこれに拍車をかけており、乾燥コストの上昇が木材価格への転嫁を招き、利用をさらに遠ざけるという悪循環が生じています。
この「資源のミスマッチ」と「エネルギーコストの増大」という二重の課題を解決するため、根羽村では人工乾燥のみに依存しない、持続可能な乾燥手法の確立が急務であると考えています。
「Neba Scale」実験の3つの特徴
1. 矢作川流域「山・里・海」での3拠点同時比較
本実験の最大の特徴は、矢作川流域圏ネットワークの協力により、環境の異なる3つのエリアで同時に実験を行う点です。
- 根羽村(山間地)
- 安城市(平野部)
- 西尾市(沿岸部)
これら3拠点に同条件の試験体を設置し、地域ごとの気候差が乾燥速度や品質にどのような影響を与えるかを検証します。これにより、将来的な気候変動への適応可能性も探ります。なお実験には、長野県林業総合センター様にもご協力をいただきます。
2. 設備投資ゼロ、天然乾燥の限界に挑む
新たな乾燥施設を建設するのではなく、既存設備を活用した「天然乾燥」のみで、建築用材として実用可能な含水率(約15~20%以下)まで下げられるかを検証します。これにより、設備投資を伴わない経済的な乾燥モデルの構築を目指します。
3. 多様な形状でのデータ蓄積
試験体には、今後の利用拡大が期待される以下の3種類の形状を用います。
- 正角材(260mm角)

- 太鼓材(長辺260mm)

- 丸太材(皮剥きのみ)

これらを各拠点に配置し、約1年間にわたり含水率、割れ、変形などを詳細に記録・分析します。

本プロジェクトが目指す社会的インパクト
本実証実験「Neba Scale」は、単なる技術検証にとどまらず、以下の3つの側面から持続可能な社会の実現に貢献することを目指しています。
1. 【環境・脱炭素】「化石燃料に頼らない木材生産」への転換
従来の人工乾燥は、灯油や重油、電気などのエネルギーを消費するため、コスト面だけでなく環境負荷も課題となっていました。
本実験により、天然乾燥だけで建築用材として実用可能な含水率(約15~20%)を実現できれば、製造過程におけるCO2排出量を大幅に削減する「脱炭素型の木材供給プロセス」を確立できます。
また、エネルギーコストの削減効果を定量化することで、経済と環境を両立させる新たな指針を提示します。
2. 【地域経済】「厄介者」だった大径材を、高付加価値な「地域資源」へ
大きく育ちすぎて活用に手間のかかる「大径材」は、森林管理上の課題でした。本プロジェクトでは、既存設備を活用し、新たな設備投資を行わずに乾燥させる手法を検証します。
これにより、コスト負担を抑えながら大径材を製品化する道筋をつけ、地域資源としての経済的価値を向上させます。ひいては、利益が山側に還元される持続可能な林業経営を後押しします。
3. 【流域連携】気候変動に適応した「流域分散型モデル」の構築
矢作川流域圏ネットワークの協力のもと、山間地(根羽)・平野部(安城)・沿岸部(西尾)という異なる環境データを蓄積することは、気候変動への適応策を見出す上で極めて重要です。
地球温暖化による気候変化が乾燥プロセスに与える影響を明らかにすることで、将来にわたって通用する乾燥ノウハウを構築します。
この知見を流域全体で共有し、地域特性に合わせて木材を利用する「地域分散型木材利用モデル」の構築に寄与します。

今後の展望
本試験期間は2025年11月から2026年11月までの約1年間を予定しています。
得られたデータをもとに、人工乾燥の代替手法としての可能性を提示し、エネルギーコスト削減効果を定量化します。根羽村および流域圏全体において、地域資源である大径材の経済的価値を高め、環境負荷の低い「地域分散型木材利用モデル」の構築を目指します。
関係者コメント
PAN- PROJECTS(高田 一正)
森のスケールと、現在の建築が前提とする規格寸法との間にずっと違和感を抱いてきました。細い材に加工することで木材の歩留まりは下がり、結果として林業に還元される価値も失われていく。本来は大きい材を大きいまま活かす方が豊かな建築をつくれるはずですが、乾燥の壁がそれを阻んできました。
本実験はその根本課題に正面から取り組み、森の論理に寄り添った、プリミティブでありながらも新しい木材利用の未来を切り開く第一歩になると期待しています。
株式会社トリイアンドカンパニー
わたしたちが本社を置く愛知県安城市は、根羽村を源流とする矢作川から取水する「明治用水」により、農業で発展してきた歴史があります。
今回の「乾燥条件の違いを流域単位で観察する」という試みは、「森と人のためにできること」というビジョンを掲げるわたしたちにとって、非常に共感できるものでした。この実証実験が下流域である安城と源流の根羽との連携を強め、新たな経済循環を構築するきっかけとなればと思います。
根羽村森林組合
大切に育てられた木が、規格外という理由だけで活かしきれない現状があります。日々、森を守り育てる私たちにとって、それは解決すべき大きな課題だと感じています。
今回の実験には、林業に限らず多様な視点を持つ方々に参加いただいています。私たちだけでは到達できなかった発想が加わることで、課題解決の新たな一歩が生まれると期待しています。
森や林業、そして木の可能性に、多くの人がワクワクできる未来へ。その実現に向けて、私たちも挑戦を続けていきます。
実施概要
- 試験名称: Neba Scale – 大径材天然乾燥試験
- 実施期間: 2025年11月 ~ 2026年11月(予定)
- 設置場所: 長野県根羽村(根羽村森林組合 木材置き場)、愛知県安城市(鳥居工務店 木造エシカル定温倉庫横)、愛知県西尾市(株式会社アイラス 広場)
- 試験体数: 合計90本(各拠点30本 × 3箇所)
- 検証項目: 含水率、全乾密度、水分傾斜、外観変化(割れ・変形)など



本件に関するお問い合わせ先
実験の詳細に関すること
担当 根羽村森林組合総務課 大久保
電話 0265-49-2120
URL https://nebaforest.net
その他広報等に関すること
担当 根羽村役場総務課 戸谷
電話 0265-49-2111
URL https://www.nebamura.jp