2026.10.27

森を歩き、流域を考える。上流と下流のあいだで過ごした、根羽村フォレストカレッジの3日間

長野県根羽村は、森林面積94%、人口約800人の中山間地域です。村単体で森林組合を持つなど、古くから林業とともに歩んできました。近年は、上流と下流が互いに価値を分かち合いながら経済を回していく「流域経済圏」構想を進めています。

2026年9月5日から7日にかけて、この構想を体感する2泊3日のプログラム「Forest College Advance in 根羽村」が開催されました。林業従事者や大学生、フリーランスなど、各地から集まった約20人の参加者が、根羽村と愛知県安城市が共同管理する水源の森を歩き、上流・下流それぞれの立場で活動する人々と対話を重ねながら、「流域とは何か」を考え続けました。

森を歩き、未来を描く

プログラム初日、参加者は矢作川の源流域にある「水源の森」を歩きました。この森はかつて国の植林事業から始まり、今では下流域の愛知県安城市と根羽村が共同で活かし育てています。参加者は15年後の水源の森を描く「SATOYAMA CONCEPT MAPs」を片手に、林業を学ぶ「源流林業の森」や、これからの森づくりを住民とともに考える「集い考える森」など、いくつかのエリアを実際に歩いて回りました。

ガイド役は、株式会社やまとわの川内洋輔さんと西門裕貴さん。「なぜあえて広葉樹を増やす針広混交林にするのか」と、歩きながら参加者に問いを投げかけていきます。

「ずっと歩いていられる気持ちいい道」「矢作川の源流に来られたことが特別な体験だった」という声も上がるなか、歩いた後のグループワークでは「マップが楽しい未来を描いている」「まだ方針が定まっていないエリアにどう取り組むか気になる」といった感想が共有されました。

上流と下流、それぞれの流域との関わり方

会場となったのは、矢作川流域の1つである岐阜県恵那市串原のCAFE SHACK。写真左から杉山泰彦さん(ファシリテーター)、鳥居将成さん・岩ヶ谷充さん・鈴木達朗さん(講師)

2日目には、下流域の岡崎市・安城市・西尾市で活動する人々を招いたトークセッション「流域から仕事をつくる」が開かれました。

岡崎市の乙川で2021年に市民活動団体「ONE RIVER」を立ち上げた岩ヶ谷充さんは、事務所にこもるのではなく川沿いの倉庫に自ら常駐し、誰もが訪ねられる場をつくってきた経験を振り返りながら、清掃活動やキャンプ事業を、市民活動だからと無償にはせず、料金を得ながら運営してきた経緯を語りました。安城市で工務店を営む鳥居将成さんは、社員に根羽村で暮らしてもらう「二層」という価値観での共感づくり・関わり方を紹介。

西尾市の幡豆地区でハンバーガー店を営む鈴木達朗さんは、今年、根羽村のとうもろこしを海辺で売ってみたところ好評だったというエピソードを披露しました。それぞれ立場は違っても、根羽村と下流域の間には、すでに流域としての関係が育まれていることがうかがえました。

午後には、串原地区でハムやソーセージを製造する「山のハム工房 ゴーバル」と、野菜を育てる「てらぼら農園」を訪問。共同生活から始まったという暮らしぶりや、「Living is sharing(生きることは分かち合うこと)」という理念のもとで働く人たちの姿に、「心が揺さぶられた」と話す参加者もいました。

「流域とは何か」を、問いのまま持ち帰る

最終日は、森の中で牛を放牧する「ハッピーマウンテン」の幸山明良さんの案内のもと、山地酪農の現場を歩きました。山地酪農とは、牛舎に頼らず、主に山の斜面に生える野草を餌に牛を育てる方法で、山の管理にもつながっています。牛の糞を分解する糞虫や、放牧によって笹地から野草地へと変わっていった植生の変化を前に、「命が好き」と語る幸山さんの、動物や植物との向き合い方に心を動かされた参加者もいました。

プログラムの締めくくりには、参加者全員が3日間の感想を分かち合う時間が設けられました。「流域とは、人と人のつながりや貸し借りのようなもの」「境界線を越えていこうという合言葉」「顔の見える誰かを思い浮かべると、流域がイメージしやすくなる」など、それぞれが持ち帰った言葉はさまざまでした。

「流域を一言で表すなら、つながりという言葉が適切」という声もあれば、「流域経済圏という言葉が先行しすぎると、ビジネスのための言葉に聞こえてしまう」という率直な指摘もありました。答えを急がずに考え続ける姿勢の大切さが、あらためて共有されました。

つながりが、土台になる

3日間を通じて、「流域とは何か」という問いに明確な結論が出されることはありませんでした。それでも、上流と下流、それぞれの立場で暮らす人々が顔を合わせ、対話を重ねたこと自体が、根羽村が目指す「流域経済圏」の土台になっていくはずです。今後もフォレストカレッジのような機会を通じ、地域を越えたつながりを育んでいく取り組みが続いていきます。

取材・執筆:魚住奈都子