2026.07.30

時計と森と子どもたちが交わった2日間――根羽村とシチズン時計が育む都市と山村のつながり

2026年7月7日・8日、長野県根羽村にシチズン時計株式会社(以下:シチズン)の社員10名が訪れました。根羽村とシチズンは、一般社団法人more trees(以下:モア・トゥリーズ)が仲介し、2024年から森づくりプロジェクトを一緒に進めています。今回の10名は社内公募により自ら手を挙げて参加しました。1日目は根羽学園の子どもたちと腕時計のバンドづくり、2日目は広葉樹の植林体験とキャリア学習。都市と山村、企業と地域、大人と子どもが交わった2日間の記録です。

時計と森が出会う根羽学園のワークショップ

1日目の午後、根羽学園の教室にシチズン社員と子どもたちが集まりました。シチズンの企業紹介に続き、モア・トゥリーズのスタッフから森林保全の活動が紹介されます。日本の国土の約7割が森林であること、そのうち戦後に植えられた杉・ヒノキの人工林が増えすぎていること、根羽村は矢作川の水源の地であるため水資源を守る観点からも広葉樹の植林が適しているエリアが多いこと。「根羽村 シチズンの森」は、そんな根羽村の土地にケヤキ・ミズナラ・クリなどの広葉樹を植えるところから始まりました。

続いて行われたのは、オリジナルの腕時計バンドづくり。バンドの素材は根羽杉の木の糸を使ったデニムで、作製したバンドをシチズン製の時計に取り付けました。布を丁寧に折り、両面テープで貼り合わせ、カラーの布を重ねながら仕上げていく作業に、子どもたちは真剣な表情で取り組みました。「学校の時計もシチズンだと初めて知った」「意外と簡単に作れた」という声が上がり、完成した時計を腕に着けた子どもたちの表情は誇らしげでした。

俺らで山に花を咲かそう 1本入魂の植林体験

2日目の朝、今回植林する「根羽村 シチズンの森」で子どもたちとシチズン社員を待っていたのは、ケヤキ・ミズナラ・クリ・カツラ・ヤマザクラといった広葉樹の苗木たちです。植える前にそれぞれの木の個性が紹介されました。ウイスキーの樽にも使われるミズナラ、椎茸の原木になるコナラ、葉っぱがハートの形でキャラメルのような甘い香りを持つカツラ。広葉樹は針葉樹と違って「わがまま」で、それぞれ好みの場所があるのです。

この日の心得は「苗木の気持ちに寄り添うこと」と「1本入魂」の2つ。一度植えたら木は動けません。斜面の傾きで水の流れを読み、日の入り方と方角を確認しながら、子どもたち・根羽学園の教員・シチズン社員の4人1組で作業を進めました。根っこをほぐして植え、石や枯れ草で表面を覆う「マルチング」まで、一つひとつの工程に意味があります。

「俺らで山に花咲かそう!花咲かじいさんになる!」と叫んだ生徒の声がその場を明るくしました。植え終えた苗木には名前を書いたネームプレートが付けられ、「60年後が楽しみ」という言葉も聞かれました。

仕事の意味を、大人たちの言葉で問い直す

植林体験の後は、根羽学園での授業へ。7〜9年生がそれぞれのテーマでシチズン社員と交流しました。そのうち7年生は「キャリア教育」の観点から、シチズン社員3名と向き合いました。開発部門の井手さん、営業企画の笹嶋さん、ブランド推進の奈良さん。3人がそれぞれ「どんな仕事をしているか」「なぜその仕事を選んだか」「やりがいは何か」を率直に語りました。

3人に共通していたのは、「最初からこの仕事をしたいと選んだわけではなかった」という正直さでした。それでも仕事を続ける中で面白さを見つけ、「やり始めたから面白さがわかる」「認めてもらえた瞬間が嬉しい」「社員の頑張りをお客さんに届けたい」と、それぞれの言葉で働く意味を語りました。

「仕事をする理由を円グラフで表してください」という質問には、3人が黒板の前で悩みながら円グラフを描きました。お金のため、誰かの役に立つため、楽しいから——それぞれ異なる割合のグラフが並び、働く理由に正解がないことが伝わってくるようでした。「一つの時計にも、作る仕事、売る仕事、伝える仕事といろんな働き方がある」という言葉に、教室の子どもたちは真剣に耳を傾けていました。

時計と森と、ともに歩むこれからへ

時計を作り、木を植え、働くことを語り合った2日間。シチズンと根羽村の取り組みは、企業の森林保全活動にとどまらず、子どもたちが地域の外の大人と出会い、問いを持つ場にもなりました。

シチズンと根羽村との関わりは、飯田工場が根羽村の近隣に位置していたことをきっかけに始まりました。森づくりを通じて、企業と地域の間に少しずつ具体的なつながりが生まれています。

「世の中の問題を解決することも、会社の仕事のひとつ」と語ったシチズン社員の言葉は、この2日間の取り組みそのものを指しているようでもありました。根羽村の森はこれからも少しずつ育っていきます。

取材・執筆:魚住奈都子