2026.06.05
「森は誰のものなのか」――国連大学で問いかけた、流域からの一歩
2026年5月28日、東京・青山の国連大学本部ビル、エリザベス・ローズ国際会議場。国際生物多様性の日シンポジウム「地域の一歩が、世界を動かす――協働で実現する人と自然の共生」が開催され、一般社団法人ねばのもり代表理事の杉山 泰彦がnebaneプロジェクト事例発表とパネルディスカッションに登壇しました。
今年の国際テーマは「Acting locally for global impact」。2026年10月にアルメニアで開催予定の生物多様性COP17を控え、各地域での具体的な取り組みをどうグローバルな目標につなげていくかが問われる場でした。
6つの事例が集まった一日
シンポジウムは、環境省・国連大学サステイナビリティ高等研究所(UNU-IAS)・地球環境パートナーシッププラザ(GEOC)・地球環境戦略研究機関(IGES)の共催で開催。石原宏高環境大臣のビデオメッセージに続き、東京大学の橋本禅教授による生物多様性の国際動向に関する基調講演、日経BPの藤田香氏による企業連携と地域価値向上の講演が行われました。
事例発表には6組が登壇。環境省による国際プロセスの概説、日本大学の西麻衣子教授による里山・里海の国際パートナーシップ「IPSI」の紹介、横浜市のネイチャーポジティブ実装の取り組み、ユースの酒井はるなさんによるCOP30参加の学び、キリンホールディングスのスリランカでのコレクティブアクション。そしてnebaneの事例発表が行われました。
国際機関、基礎自治体、ユース、グローバル企業――多彩な登壇者が並ぶ中で、人口800人の水源の村に根ざし、長期にわたって地域で活動を続けている立場からの発表は、この場では珍しいものだったかもしれません。

「森は誰のものなのか」という問い
nebaneの発表タイトルは「森は誰のものなのか――流域経済圏で自然資本を共同管理する」。10分間の持ち時間で、根羽村と矢作川流域の関係、nebaneが目指す流域経済圏の構想、森林ビジョンの3本柱、そして2つのアクションプランを伝えました。
根羽村は面積の92%が森林で、矢作川の最上流に位置する源流の村です。この森の恩恵――水、生物多様性、CO2吸収――は、流域100万人以上、さらにはその先へと広がっている。けれど管理は人口800人の村に集中している。木材価格はピーク時の3分の1に下落し、担い手は減り続ける。
この構造的なギャップを、流域全体でどう共同管理していくか。nebaneはその問いに挑戦するプロジェクトです。
暮らし様式の変化と、流域の共通体験
発表では、共同管理を実現するための2つのアクションプランを紹介しました。
ひとつは「暮らし様式の変化」。薪で暖をとる、ヒノキやスギの蒸留水を日常に取り入れる、山菜やキノコを採る。森を考える会で住民から出てきた言葉があります。「お金を介さないコミュニケーションを実行する力――それが里山の持久力であり、豊かさだ」。林業としての「生産的利用」と、薪や山菜のような「生活的利用」の間に「遊び」の余白が生まれる。この遊びこそが、暮らしと自然の接点です。
もうひとつは「流域での共通体験を増やす」こと。下流の子どもたちが源流を体験するプログラム、商業施設で森のワークショップを開くイベント、企業の新卒研修、大学による長期モニタリング。共通の体験が増えると、上流の森が「他人事」から「自分事」に変わる。この蓄積が、やがて自然資本の共同管理を支える経済的な仕組み――流域経済圏――の土台になっていきます。
国連大学エリザベス・ローズ国際会議場での登壇の様子
パネルディスカッション
事例発表の後、登壇者5名によるパネルディスカッションが行われました。
「地域課題と国際課題をつなぐ共通ビジョンをどう作るか」という問いには、上流側のスタンスとして大切にしていることを伝えました。nebaneが意識してきたのは、下流側の企業や自治体が手を組みやすくなるような体制を、上流側からきちんと整えていくこと。そして、地域の特定の人たちだけを早いスピードで巻き込むのではなく、時間をかけながら丁寧に関係者を広げていくこと。共同管理の仕組みは、急いで作れるものではない。暮らしの変化も、流域の共通体験も、少しずつ積み重ねてきたからこそ今がある――その実感を伝えました。
現場の言葉が、届いた手ごたえ
登壇者の中で、地域に長期間根ざして活動している立場からの発表は珍しかったこともあり、「現場視点を知れてよかった」「具体的な行動実績があってわかりやすかった」という声をいただきました。
国際的な枠組みや政策の議論が続く中で、根羽村という小さな村の暮らしの変化や、住民の言葉がそのまま届いたこと。それ自体が、nebaneが目指す「地域の一歩が世界を動かす」の小さな実践だったのかもしれません。
取材・執筆:杉山泰彦