2026.05.01
【プレーヤーインタビュー】森と人の関係性をつなぎ直す――。「自分たちは何のために森を切っているのか」という問いへの答え

長野県が進める「輝く農山村地域創造プロジェクト」により、農山村地域が持つ資源や魅力を活かし、持続可能な地域づくりを目指す取り組みが進んでいます。
この連載ではプロジェクトに関わるプレーヤーの活動や想い、地域との関わり方を掘り下げます。
二人目は、長野県伊那市を拠点に、森林関連のプロジェクトを手がける「株式会社やまとわ」の奥田悠史さん。独立編集者としてのキャリアを経て、現在は森林と人の関係性をつなぎ直す活動に取り組んでいます。根羽村では、村全体の森林ビジョン策定に関わっている奥田さんに、外から見た根羽村の面白さと可能性、これからの森づくりについて聞きました。
手の入らなくなった森に光を当て、関係性を結び直す

━━株式会社やまとわの事業や、目指しているビジョンについて教えてください。
株式会社やまとわは、大きく言うと「手の入らなくなった森に光を当てる」ことを目指しています。そのための方法として「森と人の関係性をつなぎ直す」ということをやっています。
なぜ森が暗くなったかというと、森の手入れがされずに光が入らなくなったからですが、同時に注目されなくなったということでもあります。森が注目されなくなった現代で、もう一度光を当て直すというのは、単に間伐をするだけでなく、森からのメッセージを伝えて注目してもらうことです。
そこで重要なのは、「リレーション(関係)」から「リレーションシップ(関係性)」に変わっていくことです。森と人との関係は既にあります。水は森から来ているし、木材も利用している。しかし、感情も含んだ関係性はなくなってしまいました。その関係性を取り戻すにはどうしたらいいかを考えながら事業を作っています。
林業をやっているのもその一つです。山の資源を使った農業や、地域の木を使ったものづくりなど、各地域の森の商品はどうあるべきかというプロジェクトを通じて、森のビジョンを作ったり、森と産業構造を考えたりしています。

━━奥田さんが森林のことに関心を持ったきっかけは?
環境問題だと思います。温暖化や土砂崩れ、生物多様性の喪失など、環境に対して何かできることはないかと考える中で、テーマがたまたま森だったんだと思います。
また、第一次産業の苦しみにも違和感があります。例えば農家さんの畑が大雨で冠水したとき、命をつなぐ仕事なのに第一次産業の人たちが妙に責任を背負っているのはおかしいと思います。歴史的にも食料生産に対するリスペクトが足りないと感じます。森についても同様で、「木を切っちゃいけない」という考え方がある一方で、「木の家に住みたい」という矛盾があります。そういう接続のなさに不安を覚えます。
「自分たちは何のために木を切っているのか」――ビジョン作りの意味

━━奥田さんが根羽村と関わるようになったきっかけを教えてください。
実は根羽村とは以前からご縁がありました。約15年前、僕が編集者をやっていたときに一度根羽村に取材に来たんです。そのときに、今村豊さんという根羽村森林組合の方にお話しを聞きました。
今村さんは山で死にかけた経験から、「安定や安全よりもチャレンジすることや自由に生きること」の重要性を話してくれました。そのとき「裕福な奴隷か自由な乞食か」という話をされて、僕は自由な乞食の方がいいなと思ったんです。それが僕が独立するきっかけの一つにもなりました。当時20代前半だった僕にとって考えさせられる話でした。
そういうご縁が根羽村にはあったので、今回マギーさんから「根羽村で森に関するプロジェクトをやりたい」と相談されたときはすごく嬉しかったです。根羽村は林業や森づくりの先進地だと思っていましたし、僕にできることがあったらいいなと。

━━これまでさまざまな森林の事業に関わってきた奥田さんにとって、根羽村の面白さはどこにありますか?
村単独の森林組合があるというのはめちゃくちゃ面白いです。普通は合併で大きくなっていくのですが、根羽村は独自の森林組合を持っています。また、組合長が村長なので、未来への決断ができる可能性があります。
また、根羽村は川の流れの始まりである源流域にあり、森林率94%という高さがあります。人口は800人弱ですが、根羽村の人口の熱源は根羽の森だけで賄える可能性があるんです。地域資源循環の中ですごく可能性があります。
ヨーロッパには数百人の村も多くあって、ソーラーや風力、薪ストーブなどを活用して資源循環を組合的にやっています。根羽村はサイズ感と集落のまとまりからポテンシャルがあると感じています。
━━「輝く農山村地域創造プロジェクト」の中で、奥田さんの立ち位置や役割を教えてください。
プロジェクトの設計や事業作りの部分を一番期待されていると思います。既存の根羽村のトータル林業を推進することも面白いとは思いますが、それが本当に森にとっていいことなのかという検証なく進むのは不安でした。そこで、ビジョンから一緒に考えましょうという提案をして、関係者にヒアリングし、ビジョンを作って、どういう事業にするかを1年間かけて考え、2年目、3年目で実装に持っていくような形にしました。
きれいなストーリーだけでなく、「自分がやる」という意識の醸成を目指した組織作り

━━ビジョン作りではどんな方向性が見えてきましたか?
議論を重ねる中で、大きなビジョンだけでなく、里山的な場所、奥山のような環境的な場所、生産林業の場所、それぞれに対応するサブビジョンが必要だということになりました。
単純に言えば、森で働く人たちが少し苦しんでいることに対する回答を出していくということです。「自分たちは何のために森を切っているのか」という問いに対して、「地域としてこうしたい、こういう森にしたいから林業はこうあるべき」という答えを見つけていきたいと思います。
━━森に関するビジネスの創出について、どのような課題感がありますか?
森林ビジネス創造はめちゃくちゃ難しいです。これまでと違うやり方でやるのが重要なんですが、林業で採算を立てていくときに、伐採本数を増やして面積を増やすというような量を増やす議論になりがちです。しかし、価値を増やすというのはすごく難しい作業なんです。
根羽の木だから高く買うという人はなかなかいないし、根羽の製材品をちょっと高くても買いたいというのも普通に考えると難しい。プロダクトを作るときに付加価値とスケールの関係が重要で、いくら高いものを作っても年間5個しか売れなかったら産業にはなりません。
ソフト事業で企業と一緒にやるとか、森に関するビジネスをとにかく試すことが大事です。失敗することも重要で、そうでないときれい事やストーリーだけうまく描いても実際には機能しません。コンサルや大手デザインチームが描くストーリーは綺麗だけど、実際はそんなに甘くない。
プロダクトを作ることは補助金や短期予算があればできますが、それを誰が作って、誰が責任を持つかという問題があります。すごく良いプロダクトができたとしても、自然には売れないし、1回イベントをやって終わりというのでは厳しい。SNSでの発信、イベント出店、展示会出展、営業活動など、積み重ねが必要です。そういうことを理解しながら、森のことも理解して編集・デザインできる人が少ないので、そこを一緒にやっていきたいです。
価値観の変容という課題。文化としての森を残すために

━━改めて、輝く農山村地域創造プロジェクトに期待していることを教えてください。
3年という限られた時間の中で「輝く農山村」になることが目標だと思います。達成した状態としては、例えば中間機構を作るとか、株式会社を作るといった覚悟を誰かが持つことだと思います。それは村かもしれないし、村民の誰かかもしれませんが、「私がやる」という決意が必要です。
補助金の中でできる範囲でやるだけでは相当厳しいと思います。村が中間組織を作って人を採用し、組織作りをするという本当の気持ちがないと村は変わらないでしょう。3年で完全に変えるというよりは、次のステップ、第2章の始まりになるようなフレームを作れればと思います。

━━最後に、根羽村の取り組みや林業が気になると思っている人へのメッセージをお願いします。
やまとわを立ち上げてから、社会は実はちょっとずつ変わっていくものだと実感しています。何の反応もなければ絶望しますが、「森と暮らしをつなぐ」というワードは10年前に比べると爆発的に増えていますし、先端教育として取り上げられたりしています。越境していく、染み出していく作業は確かに効果があると感じます。
また、これは陣取り合戦でもあります。森と関わる生活を推進する私たちのような人もいれば、世界を都市化していった方が効率的だという価値観の人たちもいる。私たちはこちら側を信じたいからこそ、その市場を作るためのビジネスをやっていかなければなりませんし、人によってはライフスタイルとしてやっていく人もいると思います。放っておけば侵食されていくので、少しでもこちらの世界を残すために頑張ることが大事だと思います。
根羽村には、単に美しい自然だけでなく、文化としての根羽村を残したいという想いがあります。森林管理を続けることは、単なる産業ではなく、地域のアイデンティティを守ることでもあるんです。
村の人たちがいかに関与してもらえるかが重要ですが、身内を変えるのが一番難しいので、外側のエネルギーを使う必要があるかもしれません。例えば外の人から「根羽村はすごい」と褒められることで、村の人たちが「そうだな」と気づくようなことがあるといいと思います。コミュニティが一つの方向に向かうのは難しいですが、だからこそあらゆる知恵を駆使して、地域が目指したい方向にどうやったらなれるかを考え、提案していきたいと思います。
取材・文:風音