2026.01.15
根羽村の里山を次世代へ繋ぐ森林ビジョンの策定に向けて ――暮らしの価値を再定義し、住民と共に活用の形を模索した対話の記録

2025年12月9日、根羽村のやまあいホールにて「根羽村 森を考える会:『里山林』の会」が開催されました。森を考える会は、森林整備計画等に基づき森林活動を進める中で、村が目指す森林のあり方の指針となる「森林ビジョン」を策定し、取り組みの方向性と意義を明確にしていくことを目的として企画されました。
当日は、里山に関心の高い住民や実務に携わる方々など、21名の村民が参加しました。根羽村の森を今後どのような姿にしていきたいか、里山にまつわる個人の思い出や将来への希望を交えながら、活発な意見交換が行われました。
暮らしを支える空間としての里山を再定義する

まず、信州大学農学部の内川先生から、「里山とはどのような場所か」についてお話がありました。参加者からは「居住場所と奥山の中間」などの意見が出されましたが、内川先生は、里山を私たちの「暮らしを支える空間」であると定義されました。
暮らしの根底にある「水・食・エネルギー」の3つは、本来すべて里山から享受しているものです。飲み水や田んぼを潤す水、家族単位で採集してきた山菜やクルミなどの食、そして薪や炭といったエネルギー。かつて山と里は密接に繋がり、循環していましたが、現在はエネルギーを自給することも減り、豊かな資源が活用される仕組みは失われつつあります。
里山は適度に人の手が入ることで維持されるものであり、使われなければその機能は失われてしまいます。しかし、現代の生活の中で里山を活かす具体的な仕組みがまだ整っていないのが現状です。
こうした背景を踏まえ、内川先生からは「現代において、自分たちの里山をいかに取り戻していくか」というテーマが提示されました。その実現のためには、①これまで培われてきた活用の知恵をどう引き継ぐか、②時代に合わせた新しい使い方をどう提案するか、という2つの視点が必要であるとの提言がありました。
現場の最前線が直面する、追い風の中の課題と可能性

一般社団法人ねばのもりの杉山さんからは、現在の里山活動の状況についてお話がありました。元々暮らしと紐づいていた里山活用は村の施策に大きく位置付けられていませんでしたが、今後、根羽村が存続していくためには「都会にはない暮らし」という独自の価値を大切にしていくことが重要となります。
現在、村内で実際に起きていることとして、まず「信州やまほいく」の取り組みが挙げられます。園児たちが里山で過ごす中で、今や親世代よりも子どものほうが里山活動に詳しくなるという変化が生まれています。また、村外との交流も盛んで、愛知県安城市の子どもたちによるデイキャンプやJR東海の親子向け活動、さらには名古屋で村の丸太を活用する「森との暮らしLAB」など、里山活動は都会の人々がお金を払ってでも参加したいものになってきており、世間的にも追い風の状況にあります。
しかし一方で、村内では「どの山に入ってよいのか」という境界やルールが分からず、身近な山を使いこなせていない実態があります。また、豊かな知識を持つ70〜80代から下の世代への技術伝承も十分ではなく、講師役が不足していることも深刻な課題です。何を後世に残すべきか、村の未来のために今こそ皆で考えるべきであると、杉山さんはお話しされました。
対話から見えた里山の思い出と未来の姿

続いて行われたグループワークでは、参加者が4つのグループに分かれ、2つのテーマについて意見を出し合いました。
1つ目のテーマ「里山にまつわる面白かったこと・思い出」では、村出身の方々から、川での釣りや秘密基地作り、近所の方に教わったキノコの見極め方など、豊かな実体験が数多く語られました。
移住者の方々からは、「家のすぐ近くに田畑があり、自然の恵みを享受できる暮らしそのものが、都会にはない大きな魅力である」という意見が出されました。
2つ目のテーマ「自分たちのどんな里山を作りたいか」では、かつて牛や蚕が身近にいた暮らしが、時代の変化とともに里山から離れてしまった現状を振り返りました。現代において、働きながら里山に関わる時間を確保し、技術を継承していくことは容易ではありません。
まずはキノコ採りや炭焼きを学ぶイベントのような「意図的に里山に関わる場」を創出することが重要であることが確認されました。そうした機会を通じて、里山の活用方法を現代の視点で考え直し、もう一度身近に感じてもらう。そんな「きっかけづくり」から始めていく必要があります。
根羽村独自の豊かな暮らしを次世代へ引き継ぐために

ワークショップを通じて、根羽村の里山が抱えるギャップが見えてきました。外部の人からは高く評価されているのに、村の中ではその資源をうまく活用できていない。炭焼きなどの里山に関する技術を継承する人が減っている一方で、山に親しむ子供たちの姿は、里山が次世代にとっても価値ある場であることを示しています。
今後は、本ワークショップの意見を反映した「森林ビジョン」を策定し、里山活用を含む森林づくりのアクションへとつなげます。先達の知恵を現代に活かす「きっかけづくり」から、根羽村独自の暮らしを次世代へ引き継ぐ一歩を踏み出していきます。
取材・執筆:魚住奈都子