2025.02.06

自然豊かな山村地域における、豊かなビジネスのつくり方とは。【第三回『森とまちの流域学』レポート】

村の面積の7割を占める杉・ヒノキの山を今後どう利活用すべきなのか。根羽村で取り組んでいる「輝く農山村事業」では、全国のかつて林業で栄えた村が共通課題として持っている人工林の利活用についてどう向き合うべきか、がひとつの重要なテーマとなっています。

2月6日に根羽村で開催された第3回「森とまちの流域学」では、「豊かに生きる 森と村」をテーマに森や過疎地域をフィールドに豊かな暮らしを実践している人たちの考え方に迫りました。

第3回目は村が大雪に見舞われましたが、20名近くの方々が会場に集まりました。

自然と動物と向き合う日々。生かしあうことで感じる、自分の豊かさ

ハッピーマウンテン 幸山明良さん

1人目に登壇されたのは、根羽村を拠点に元々人工林だった山に新しい活路を見出す開拓を行う幸山明良(こうざん あきら)さん。牛を山の中で放牧する「山地酪農」の手法を用いながら、生物多様な山づくりを実現し、そこから生まれた様々な自然資源を活用して事業を展開しています。

彼が事業を展開するにあたって大切にしてきたのは、関わるすべての人が幸せになれる選択を選ぶこと。ビジネスとして成立させることが難しい酪農業において、経済的側面だけを見るのではなく、周辺に生存する自然や生物も幸せになれる方法を模索し実践した結果、現在はフィールドの利用料や、ワークショップ、ガイド、きのこや山菜など産物の販売などで収益が得られるようになったといいます。

また幸山さんは、1つの事業ではなく様々な型での活動を行うようになった結果、動物や植物を様々な視点で見えるようになったことが豊かな気持ちに繋がっているといいます。今年はさらに新たな一面を見るために、山にだけいるのではなく流域の海側にも足を運んで繋がれる方法を模索したい、という目標を発表していました。

課題解決をおもしろく、温かく。高齢化社会の主役を武器に、おばあちゃんビジネスを展開

うきはの宝株式会社 代表 大熊充さん

2人目に登壇された方は福岡県うきは市に本社を構え、全国で事業を展開するうきはの宝株式会社の代表・大熊 充(おおくま みつる)さん。75歳以上のおばあちゃん、おじいちゃんがイキイキと労働することで、働いている人々の健康寿命を伸ばすと共に、田舎ならでは商品を都会に展開することで事業を成立させています。

どの山村においても課題となっているのが少子高齢化。その中で、大熊さんの取り組みは問題を逆手にとって、強みに活かす事例。おばあちゃんたちが得意な食と料理を商品化し都会で販売したり、全国の輝くおばあちゃんを取り扱う月刊新聞を発行するなど、特色を活かしたサービスを全国に展開し、様々な賞を受賞しています。

ビジネスモデルの秀逸さもありながら、とにかく大切にされているのはユニークさ。サービスのネーミングや、組織の運営など、「おもしろさ」と「温かさ」を重視し、暗いテーマになりがちな高齢者問題に流されることなく、独自の目線で強みを抽出し、事業として表現していました。

豊かさとビジネスに存在する矛盾とどう付き合うか。信念をぶらさない

前半のプレゼンテーションでは、それぞれの登壇者が自分たちの活動の豊かさについて語っていきましたが、後半のパネルディスカッションでは、生きていく上で求められるお金とのバランスの取り方や付き合い方についての議論がなされました。

お金を稼ぐことだけが豊かさに直結するわけではない、とは誰もが分かっている。しかし、だからといってお金を無視して生きることは現代の社会ルールではとても難しい、という前提の中で、お二人は共に稼ぐことは持続性を保つためでは重要と捉えていました。

しかし、多くのおばあちゃんを社員に抱える大熊さんの場合、市場での適正価格より低い価格で販売しようとするおばあちゃん社員たちとぶつかることがよくあるといい、「ぼったくり」と言われることもあったといいます。経営者として数字を求めること、地域全体とのバランスを見た中で行っている行為でもなかなか理解していただけない葛藤もあるとのことでした。

また議論の後半では、ブランディング手法とリアリティの矛盾についても議論がなされました。人が来たくなるような分かりやすいキャッチコピーをつけたり、多くの人にみられるような広告手法を用いることはできるけれど、外向けに出した内容と実際にあるものが乖離した状態になった場合には、豊かとは言えません。また、近年のオーバーツーリズム問題のようにキャパシティ以上の来場者が来てしまう状態になることは、ビジネス的に成功を収めていても心が豊かにならないケースも多く存在します。

幸山さんはこの問題に対し、自身の山を深く理解してもらう人のみに来てもらうため、一部の人にしか目に入らないような工夫をしたそうです。ホームページを検索で表示されないようにし、予約問い合わせもSNSを通じたホームページ来訪者のみにするなど、活動を認知できる入り口を狭めた結果、本当に訪れたいと思ってくれている人たちのみから問い合わせが来るようになり、より事業がうまく回るようになった、とのことでした。

取材・執筆:杉山泰彦