2025.01.31

人工林の森に、本当に価値はもう無いのだろうか。先駆者から学ぶ、森の未来の可能性【第二回『森とまちの流域学』レポート】

村の面積の7割を占める杉・ヒノキの山を今後どう利活用すべきなのか。根羽村で取り組んでいる「輝く農山村事業」では、全国のかつて林業で栄えた村が共通課題として持っている人工林の利活用についてどう向き合うべきか、がひとつの重要なテーマとなっています。

1月31日に根羽村で開催された第2回「森とまちの流域学」では、「森を次につなぐ ものづくり、事業づくり」をテーマに、有効的なアプローチを持って取り組む先駆者をお呼びし、森の利活用について着目した勉強会が開かれました。

前回に続き30名近くの方々が参加し、村内在住の山主、森林組合で製材に取り組む方々、流域沿いに住む方々など、様々な属性の方々が会場に集まりました。

森からはじまり森へ還る。循環にこだわりきる精油事業。

合同会社楠山 代表 吉水純子さん

1人目に登壇されたのは、宮崎県を拠点に精油事業を行いながら、国内外の特産品開発にアドバイザーとして関わる合同会社楠山の代表・吉水 純子(よしみず じゅんこ)さん。元々は音楽業界で活動されていたものの、約10年前より森林に関わる取り組みをスタートさせ、自身でも4年前より蒸留所を宮崎県に設立されています。

彼女の取り組みで特徴的なのが、“全国各地にある未利用未活用の森林資源がどうやったら命を息を吹き返すことができるのか”という視点で再現可能なビジネスモデルの構築を目指していることです。北海道・沖縄を除いて全国どこにでもある杉の木にあえて着目し、杉のアロマオイルを中心とした販売事業を構築しており、かつ一般的に木材にならず廃棄されるような材に注目し、薪で蒸留ができる蒸留機械を輸入し実践を行っていました。

また、さらに興味深いのが、オイルを精製するにあたって生まれる副産物の利活用方法も設計されていること。生まれた灰を農業に転用したり、蒸留の最中に生まれる蒸気を燻製に利活用することなど、余すことなく使い切る、というところにかなりこだわりをもって実践を行っていました。

単体で高い利益を得られなくても、プロセスによって生まれる副産物を廃棄するのではなく、別の利活用方法を見出すことで複合的に稼げるモデルを生み出す。1つ1つの素材を深く探求することの大切さを伝えていました。

「製材所はやらんほうがいい」と言い切る小規模製材で、しぶとく生き残る実践者

株式会社nojimoku 代表 野地伸卓さん

2人目に登壇された方は、三重県熊野市にある製材会社の株式会社nojimoku代表の野地伸卓(のじ のぶたか)さん。三重と和歌山の県境にある熊野市を拠点に、祖父が始められた製材会社を継ぐ3代目の代表で、杉・ヒノキを中心とした製材業を経営しています。

社会全体として製材工場が年々減り、大規模化が主流となっている中でとても厳しい逆風に立たされている小規模製材所。根羽村森林組合の規模も小規模であります。その中で、野地さんの講演では冒頭から以下に製材業が厳しいものであるか、ということが業界全体のファクトから伝えられ、「製材所はやらんほうがいい」とまで言い切る場面も。っていました。(笑)

20年前に家業が経営危機となったタイミングでUターンをし、会社の再建に取り組まれた野地さん。生き残るために意識し続けたことは、「どこにもない製材所」となることでした。厳しい逆風の中でしぶとく生きるためには、とにかく他がやらないこと、できないことに必死に取り組むスタンスが大切だと熱弁しました。

オンリーワンとして求められる存在となるために欠かせない、立場を超えたコミュニケーションの重要性

根羽村森林組合 総務課長 大久保裕貴さん

後半のパネルディスカッションでは、根羽村森林組合の総務課長を務める大久保 裕貴(おおくぼ ゆうき)さんも加わり、森林組合の課題をぶつけながら二人の取り組みを具体的に掘り起こし、付加価値を高められるオンリーワンのプロダクトづくりの重要性を尋ねていきます。

議論の中で見えてきたことは、異なる立場同士のコミュニケーションの壁により、漏れてしまっている様々なニーズがあるということ。その課題を解決するため、nojimokuでは、従来製材所と建築家の間にあったコミュニケーションの壁を超えるため、建築家とのディスカッションを通じた商品開発を行っています。また、吉水さんは、森林組合や山主と、「森林素材を使いたい」と思っている企業やユーザーとの間を取り持つ役割を担う中で、求められているニーズを掴んでいるように感じました。

また、コンサルで様々な地域に入られている吉水さんに、「地域独自性の高いオリジナル商品を作る際にどういうプロセスを踏んでいるのか」と尋ねたところ、「地域が一番弱点だと思っているところに着目する」という回答がありました。

弱みと思っていること、つまり価値が無いと思っているものは一般的に市場に出てきません。しかし、その弱みと思っている部分をニーズとして求めている企業とマッチングすることができれば、唯一無二のオンリーワンに昇華させることができる、ということでした。

弱みは逆さにすれば強みになる。既存の市場の中での成長の限界が見える中での現状打破は、固定概念や既存の立場から脱出すること。それを一人だけで行うことは難しいですが、異なる立場の人々とのコミュニケーションやディスカッションを積み重ねることで、自然とできるようになっていくはずです。越境することの重要性を強く実感できた一日となりました。

取材・執筆:杉山泰彦