2025.01.23
問われる未来からのバックキャスティング。根羽村の森の課題と、どう向き合うべきか。【第一回『森とまちの流域学』レポート】


村の面積の7割を占める杉・ヒノキの山を今後どう利活用すべきなのか。根羽村で取り組んでいる「輝く農山村事業」では、全国のかつて林業で栄えた村が共通課題として持っている人工林の利活用についてどう向き合うべきか、がひとつの重要なテーマとなっています。
1月23日に根羽村で開催された「森とまちの流域学」では、この問題に有効的なアプローチを持って取り組む先駆者をゲストとしてお呼びし、先進事例の講演を受けながら、根羽村でも活用できそうなヒントを参加した方々とともに考える会が行われました。

当日は、30名近くの方々が参加し、村内在住の山主、森林組合で働く現場メンバーや森林プランナー、流域沿いに住む方々など、様々な属性の方々が会場に集まりました。
登壇者に問われる「村における真の森林ビジョンの重要性」

まず1人目に登壇されたのは、岐阜県郡上市を拠点に全国の森林課題に取り組むフォレスターズ合同会社の代表・小森胤樹(こもり つぐき)さん。元々は薬の研究開発の仕事をされていましたが、約20年前に林業業界に転職し、民間事業体で現場技能者や代表取締役を経て、2021年より独立して活動をされています。
現在、会社の事業として取り組まれているのは、全国の各市町村の森林計画策定やそれに伴う体制整備。特にヨーロッパで導入されているフォレスター(森林総合監理士)の存在の重要性を感じており、フォレスターの育成とともに全国各地で森を中長期目線で捉えて計画雲栄を行う人材が活躍できる環境づくりに取り組まれています。
冒頭の講演から問われたのは「未来からどれだけバックキャスティングしていますか」という質問。森の整備計画、それに伴う人材体制、年間の伐採量等々。今できる範囲、という考え方から計画を作るのではなく、どういう未来を森で実現したいのか、という森林ビジョンから逆算して計画をする大切さを強調しました。小森さんの取り組み事例と熱量に、大きく頷く参加者の姿が多く見られました。
高知県と香川県で越境して行われている「流域連携事例」

2人目に登壇された方は高知県土佐町役場の企画推進課 SDGs推進室にて森の活動に取り組まれる尾﨑康隆(おざき やすたか)さん。源流が流れる土佐町と本山町の森と水を守るために、流域沿いの企業や自治体との連携を作り、流域全体で水を育む森づくりの在り方に取り組む中間組織「一般財団法人もりとみず基金」の立ち上げを行なっています。
過疎が進む今、源流が流れる自治体のみで森を守ることはとても難しい現状が全国各地でおきており、根羽村でも同様の課題を抱えています。
尾崎さんはこの課題に対して、流域全体の課題をデータとしてなるべく見える化し、どのようにアプローチを行うことで森や水に変化を与えられるかが、取り組んだ人たちが分かるような仕組みづくりに取り組んでいます。かつ、実行に必要な活動資金を流域内で確保し効果的に運用するため、財団を立ち上げフォレスターを財団で雇いながら、水を守る森づくりを運用しています。
地域を守るために、外部の関係者とどう効果的なパートナーシップ関係を結んでいくか。尾崎さんの取り組みは、矢作川流域の源流が流れる根羽村でも応用ができそうな取り組みです。
地域の特性と課題に着目し、「やり方」ではなく「体制」にどうテコ入れをするか。
後半のパネルディスカッションでは、もりとみず基金でフォレスターとして活動される立川真悟(たちかわ しんご)さんにも入っていただき、議論を展開していきます。フォレスター人材をどう育成していくか、下流域との連携の組み方、現場と経営側と自治体の連携の在り方、環境配慮を視野にいれた林業の在り方について議論がされました。

大前提、林業業界が今抱えている問題はとても複雑な問題です。木材価格が全盛期より落ちている現状を踏まえた経済性の厳しさもある一方、環境目線や防災目線で捉える必要もあり、かつ山主さんとのコミュニケーションも求められます。
つまり、何かひとつを部分的に着目して取り組めば解決される問題はありません。加えて、各地域ごとに地形の特徴や文化も異なるため、ひとつの地域の成功事例が横展開ですべてに応用できる訳でもないのです。
その中でディスカッションとして多く述べられたのが、地域に適した体制づくりをどう実現できるか。根羽村の場合、小規模自治体であり村長が根羽村森林組合長も務める体制であることから、森林組合と役場が他の地域と比べてかなり近い関係性で森について取り組める特異性があります。加えて、山主も多くは村の人であり、コミュニケーションを取ることができ、100万人以上が住む矢作川流域という独自の市場もあります。
これらの特徴を踏まえ、村としての森林ビジョンを見据え、ビジョン実現のために適した根羽村ならではの体制とはどうあるべきか。そのような方向性にヒントがあることを参加者も感じた勉強会となりました。

取材・執筆:杉山 泰彦